御徒町凧 OFFICIAL SITE

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詩

ポエトリーカラス10

この港に今舟はないけれど

もう行ってしまったのだろうか

それともまだ来ていないのか

風に乗る海猫が十三の列をなし

暮れていく空に影だけを残す

触れられるものはすべて

一定の温度で

俺の涙腺を緩ませる

眠りの中へ跳躍する大小の声音

組み合わされることを拒んで

意味をあざ笑う

体中の水分が

取り込んだインドカレーに吸われて

ソファに寝転がる

遅れてきた仲間を歓迎する

風に音はない

光に色はない

砂に数はない

道に始まりはない

川上から流れてきた巨大な桃に目もくれず

ハゲあがったバーテンダーはグラスを磨く

ノートの端で動かなくなった感情

木製のテーブルに置かれた紙ナプキンに

あの日書き残した青春の残滓が

あり得ない発光とともに今日を上書きする

借り物の足がこんなにも

見事に交互に働いて

アンティークの灰皿を尻目に

より細かい元素へと還元される

更新されたパスワードを忘れて君は

そんなにも無垢な表情で何を語る

昨日よりも上手に羽ばたけました

生まれて間もない空間の神秘

作為に満ちた大きな台風が

俺と君だけを喜ばせたのは恐らく勘違いで

遠くからでも見えるように掲げた両腕を

通り過ぎるだけの人たちが微笑ましく見ている

つぎはぎだらけの臓腑

底をついたアルコール

ぶら下げられた手首が

先に握られるのを待っている

沈黙の外で縁のないメガネが雄弁に

すべてを過去だと断定する

初雪の朝

降り止まぬ雨

耳だけを頼りに

消え入りそうな老人

コインが落ちた地点を基準にして

放射状に広がる

君と君と君と君

ガソリンスタンドのインスタントコーヒー

丸めて投げたストリップ小屋のインビテーション

知らない食べ物全般をカレーと呼んだ

君の歌声が

昨夜の雑踏から聞こえてくる

勇気が大気に充満している

怖れが大地から染み出している

人間は根を待たず

光合成を忘れたプラント

一行が枝分かれして

千年の森を慰める虹

項垂れるヒマワリ

使われない雪掻き

塀の中の公園

昼休みの屋上

誰かが飛ばした紙飛行機が

静かに不時着した

慌ただしい喫茶店

使えないライター

ガスが切れていたのだろうか

ヒッチハイクをしようにも

痺れた親指は下を向いたまま

二〇一九年一〇月一九日(土)

ポエトリーカラス10

この港に今舟はないけれど

もう行ってしまったのだろうか

それともまだ来ていないのか

風に乗る海猫が十三の列をなし

暮れていく空に影だけを残す

触れられるものはすべて

一定の温度で

俺の涙腺を緩ませる

眠りの中へ跳躍する大小の声音

組み合わされることを拒んで

意味をあざ笑う

体中の水分が

取り込んだインドカレーに吸われて

ソファに寝転がる

遅れてきた仲間を歓迎する

風に音はない

光に色はない

砂に数はない

道に始まりはない

川上から流れてきた巨大な桃に目もくれず

ハゲあがったバーテンダーはグラスを磨く

ノートの端で動かなくなった感情

木製のテーブルに置かれた紙ナプキンに

あの日書き残した青春の残滓が

あり得ない発光とともに今日を上書きする

借り物の足がこんなにも

見事に交互に働いて

アンティークの灰皿を尻目に

より細かい元素へと還元される

更新されたパスワードを忘れて君は

そんなにも無垢な表情で何を語る

昨日よりも上手に羽ばたけました

生まれて間もない空間の神秘

作為に満ちた大きな台風が

俺と君だけを喜ばせたのは恐らく勘違いで

遠くからでも見えるように掲げた両腕を

通り過ぎるだけの人たちが微笑ましく見ている

つぎはぎだらけの臓腑

底をついたアルコール

ぶら下げられた手首が

先に握られるのを待っている

沈黙の外で縁のないメガネが雄弁に

すべてを過去だと断定する

初雪の朝

降り止まぬ雨

耳だけを頼りに

消え入りそうな老人

コインが落ちた地点を基準にして

放射状に広がる

君と君と君と君

ガソリンスタンドのインスタントコーヒー

丸めて投げたストリップ小屋のインビテーション

知らない食べ物全般をカレーと呼んだ

君の歌声が

昨夜の雑踏から聞こえてくる

勇気が大気に充満している

怖れが大地から染み出している

人間は根を待たず

光合成を忘れたプラント

一行が枝分かれして

千年の森を慰める虹

項垂れるヒマワリ

使われない雪掻き

塀の中の公園

昼休みの屋上

誰かが飛ばした紙飛行機が

静かに不時着した

慌ただしい喫茶店

使えないライター

ガスが切れていたのだろうか

ヒッチハイクをしようにも

痺れた親指は下を向いたまま

二〇一九年一〇月一九日(土)

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