二〇二二年〇七月〇八日(金)
1
自分がジミヘンになれるとか
ましてや何かの役に立つだなんて
そんな幻想は
十二歳の時に捨てちまったよ
ムリやり習わされたピアノが
アホみたいに上達するにつれ
2
愛ってのはどこにあるのかと
絢爛な教会の前で思ったことがあってさ
それはもう出会い頭の事故みたいに
脳天を貫いたんだ
よく見ると愛はブーツの底で
真っ二つに割れてた
3
生まれ変わっても俺は俺だろう
その証拠じゃないけどさ
生まれる前のビジョンがはっきりあるんだ
絵葉書を売るカートみたいのを
クルクル回してたら目眩がしてさ
あ、これはこないだ東急ハンズでのことだけど
4
そうなんだよ
正論を言う奴が昔から苦手で
学校も仕事も続かなかったよ
税金を払った記憶はないけどさ
たくさん払わされてんだとは思うよ
公園の水が一番美味しいんだから
5
もう二十一世紀なんだって
ガキの頃は未来だと思ってたのに
未来を生きてる感覚なんてないね
雨の日のワイパーなんか見てると
恐ろしい気持ちになってくる
ある種の催眠術なんじゃないかって
6
わざわざ困難に飛び込む
火遊びみたいなものだね
どこかとかいつかとか関係なしに
不要なモノは燃やすに限るだろ
灰と煙に安心するのさ
あの地球儀まだ実家にあるのかな
7
花が咲いている
海に行きたくなる
風だってよく見える
生きるってそんなもんだろ
幸せを語る口元がナンセンス
ピクニックはお一人様で
8
俺は空から見られてるんだ
部屋にも盗聴器がたくさんあって
もちろんスマホもハックされてる
さっき駅前で食べたミラノサンドだって
食べたかったわけじゃないんだ
紙ナプキンが自由で汚れてる
9
マラケシュってお菓子じゃなかったの?
俺のペルーは最悪だったよ
クスコのレストランで酸欠になってさ
そこにあった酸素ボンベがありがたかった
お前の退屈は俺とは無縁だろ
黙りこくった表情なんてサイコー
10
嘘つかないって意外にさ
人を苦しめるんだよ
やってみて分かったことだけど
清々しいのは自分だけ
友達が減っていったのは
後々悪いことではなかったけど
11
女よりも土を抱きたい
土に還るとか陳腐なことじゃなくて
抱かれたいって方が伝わるかな
できればミミズのいる土がいい
トウモロコシとかキャベツとか
その辺は同じ感覚なんだろう
12
知ってるか?
人間にはいろんな色がある
誰かに染まる必要なんてないんだよ
真っ黒でいるよりも?
大丈夫。混ぜてりゃ黒くなるは絵具と同じ
だろ?
二〇二二年〇七月〇八日(金)