商店街の外れに八百屋がある
古びた木造の一軒家
老夫婦が二人ダンボールに囲まれて
テレビを見ている
数年前に斜向かいに中型のマーケットができて
ほどなく潰れるだろうと勝手に腐心したが
まだ細々続いている
さらに数年後、駅中に大型のマーケットができて
斜向かいのマーケットでさえ多くの客を奪われただろう
それでもまだ続いている商店街の八百屋
休日の夕刻
男は八百屋の前で足を止め
小一時間往来を眺めていた
気鋭の写真家の作品かと思わせるくらい
変化を撥ねつけてシュールな佇まいでそこにある
もちろん客など訪れる気配もない
男は出し抜けに胡瓜の籠を手に取る
それは感傷でも好奇心でもない
純粋な気まぐれだった
二本で百二十円の胡瓜を「形が悪いから」と
店主は百円しか受け取らなかった
ビニール袋にぶら下げられた胡瓜と
手のひらに残った二枚の十円玉
帰りしな立ち寄ったコンビニで
男はその十円玉を募金箱に落とした
ドスン ドスン
ハイボールとバニラアイスが入った袋と
二本の胡瓜の袋をもう片方の手にぶら下げて
2LDKの部屋へ男は向かって歩いていった