御徒町凧 OFFICIAL SITE

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詩

胡瓜と十円玉

商店街の外れに八百屋がある

古びた木造の一軒家

老夫婦が二人ダンボールに囲まれて

テレビを見ている

数年前に斜向かいに中型のマーケットができて

ほどなく潰れるだろうと勝手に腐心したが

まだ細々続いている

さらに数年後、駅中に大型のマーケットができて

斜向かいのマーケットでさえ多くの客を奪われただろう

それでもまだ続いている商店街の八百屋

休日の夕刻

男は八百屋の前で足を止め

小一時間往来を眺めていた

気鋭の写真家の作品かと思わせるくらい

変化を撥ねつけてシュールな佇まいでそこにある

もちろん客など訪れる気配もない

男は出し抜けに胡瓜の籠を手に取る

それは感傷でも好奇心でもない

純粋な気まぐれだった

二本で百二十円の胡瓜を「形が悪いから」と

店主は百円しか受け取らなかった

ビニール袋にぶら下げられた胡瓜と

手のひらに残った二枚の十円玉

帰りしな立ち寄ったコンビニで

男はその十円玉を募金箱に落とした

ドスン ドスン

ハイボールとバニラアイスが入った袋と

二本の胡瓜の袋をもう片方の手にぶら下げて

2LDKの部屋へ男は向かって歩いていった

二〇一九年一二月〇三日(火)

胡瓜と十円玉

商店街の外れに八百屋がある

古びた木造の一軒家

老夫婦が二人ダンボールに囲まれて

テレビを見ている

数年前に斜向かいに中型のマーケットができて

ほどなく潰れるだろうと勝手に腐心したが

まだ細々続いている

さらに数年後、駅中に大型のマーケットができて

斜向かいのマーケットでさえ多くの客を奪われただろう

それでもまだ続いている商店街の八百屋

休日の夕刻

男は八百屋の前で足を止め

小一時間往来を眺めていた

気鋭の写真家の作品かと思わせるくらい

変化を撥ねつけてシュールな佇まいでそこにある

もちろん客など訪れる気配もない

男は出し抜けに胡瓜の籠を手に取る

それは感傷でも好奇心でもない

純粋な気まぐれだった

二本で百二十円の胡瓜を「形が悪いから」と

店主は百円しか受け取らなかった

ビニール袋にぶら下げられた胡瓜と

手のひらに残った二枚の十円玉

帰りしな立ち寄ったコンビニで

男はその十円玉を募金箱に落とした

ドスン ドスン

ハイボールとバニラアイスが入った袋と

二本の胡瓜の袋をもう片方の手にぶら下げて

2LDKの部屋へ男は向かって歩いていった

二〇一九年一二月〇三日(火)

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