二〇二〇年〇一月二六日(日)
四十年も生きてきて
未だに知らない感情があるんだから
百を超えた今日も生き生きと生きているだろうと
出会うことのできなかった
すれ違う魂に語りかけている
四月になったというのに
駅前の大きな公園には雪が残っていて
空港を降りた時吐く息は白かった
その土地の名産なんてほとんどが後付けだから
そんなことに俺は一喜一憂できなくて
居間のリビングの木彫りの熊の置物は
厳格な塾に通ったという手形みたいなものでしかない
出し惜しみするつもりなんて毛頭ないのに
緩んだ全身の肉が少しだけ硬くなった気がする
エイプリルフールに新しい元号が発表され
その疑いの中で生活することがどんなに息苦しかったか
航海をしなかった後悔
後悔できなかった航海
航海と後悔が同じ発音だなんて
そんな皮肉あるかってコロンブスが言っているはずもなく
泣く泣く判断を迫られた
朝食の卵の調理方法なんて正解はどこにもありはしない
四角く切り取られた視覚
ホテルの窓から遠い空を見ているような感覚
一定の間隔で俺の情緒は切り張りされていて
人気のないダンスホールで滲むような低音に身を預けている
ありがとうと聞いてまず思うのは
誰かがありがとうと言っているということ
その次に思うのは誰かがありがとうと言われているということ
家の電話の横に置かれたメモ帳に
母親の名前が狂ったように何度も書かれていて
それを見ている俺はきっと悲しかった
セキセイインコの目は横に付いているから
見つめ合う時、惚けているような感じになる
無精卵をいつまでも温めていた巣箱の中で
光る瞳は横顔でこっちを伺っていて
手を出そうものならけたたましく嘴でやられた
重たいカーテンが遮った外の光
死体でも扱うように俺の体に降り注ぐ
百万個のイイねよりも
安らかな寝息がそこにあればいいのに
ぼやけた視界の隅で携帯電話が発光している
太陽が転がっている
拓けた地平線の太陽はどこまでも転がっていく
大きな声が似合うから
音楽は歌と混ざり合って夜を徹して響いていた
ガソリンがなくなっても走る続ける車のように
地球が坂道の連続だと思えればいい
札幌オブザデッド
何気なく手にしたペンのインクが切れていた
それでも書き続けられる詩がそこにはある
二〇二〇年〇一月二六日(日)