御徒町凧 OFFICIAL SITE

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詩

ポエトリーカラス15

死ぬほどその前を通ってたのに
今日初めて入ったアンティークの雑貨屋に
灰皿になりそうな缶が売っていて
買おうとしたら領収書が出せないとか言われて
その理由をインボイスで税理士の不手際がどうのって
人のせいにしてたから
「じゃ、また来ます」って言ったら
売れちゃうかも知れませんよって
ニコリともせずに店主がこっちを見てきて
「その時はその時です」って店を後にした
 
久しぶりに会った80になる親父に
孫の名前全部覚えたかって聞いたら
「当たり前だろ」って言うから
じゃあこの子の名前は?って息子の頭を撫でたら
「急に聞かれても困る」って親父は言った
週末に行くことが多い実家だから
爺ちゃん婆ちゃんはいつも競馬やってたって
孫達の記憶の中で生き続けるだろう俺の両親
三連単と複勝と単勝全部同時に当てた時
「すげー!」って叫んだ親父の「すげー!」って言葉
初めて聞いたその時のこと
葬式で孫たちに聞かせてあげるべきかべきではないか
そろそろ決めなくちゃいけないってことを
こないだの北海道で見た最後の夢が告げていた
 
カルカッタで行くとろがなくて
一応マザーテレサのテレサハウスに行ったけど
たいして時間も潰せずにその後渋々行った
タゴールの博物館の芝生で寝転んでて
日本語が聞こえると思って何となく見たら
谷川俊太郎御一行で
タゴール像の前で記念撮影をして別れたその夜
ブッダガヤまで向かう夜行列車でまた会って
寝台の車両まで同じだったからさすがにと
ノープランだった旅の途中から
御一行のチャーターバスに乗せてもらって
ブッダが悟りを開いたという菩提樹の下で
谷川俊太郎が詩を書くという企画にも乗っかって
詩を書いてみたけど大した詩は書けなかった
 
目覚めるともうとっくに太陽は昇っていて
部屋の中は潮の匂いに満ちていた
潮の匂いって慣れると思ってたのに全然慣れなくて
もしかしたらベトつく肌の感覚が
潮と結びついてるだけなんじゃないかって
裸で踊るアビニョンの娘たちに言われて
遠方の友達が持ってきたぶどう酒に酔ったせいで
記憶がだいぶ怪しかったけれど
近現代の絵画の歴史をまとめたYouTubeを見た後に
本棚の奥から取り出したピカソの図録
あれがもしシャガールだったなら
潮の匂いのことなんて全く気にならなかった
 
親父に一度だけ殴られたことがあって
殴られたって言ってもパチンと叩かれただけだけど
正月の特番でやってた8時間の忠臣蔵の
ラスト三十分のところで外から帰ってきた俺が
おもむろにチャンネルを変えた時のこと
痛いというよりも「叩かれた」って思った
親父に躾みたいなことをされた記憶はなくて
「寝なさい」しか言わない親父だったから
40年以上の付き合いになるっていうのに
親父の考えてることが一つも分からない
最近出入りしてる北海道で唐突に
親父の夢を見たのはきっと
忠臣蔵に馬が出ていたからか
馬と親父のバイブスがよく似ているから
 
フットサルの時ライターを忘れて
紙タバコを吸うユウスケ君に借りようと思ったら
古めかしいジッポを貸してくれて
その後プレーが終わったユウスケ君が
ラメのシールが貼られてる安っぽいドラゴンのライターを
もう一つあったからって持ってきてくれた
そのライターが今目の前にあって
100円ライターがよくお店の宣伝に使われることを思った
ラブホテルのライターで浮気がバレた件数と
年間の死亡事故の件数が同じくらいだって
クルクルパーマの脳科学者が新刊の本で言っていて
どんな発見でも大きな声で言うことの大切さを
体を張って教えてくれた
 
初めて火星に降り立った時
こんなもんかぁって思ったのが正直な感想で
これからここで生活するのかなりダルそうだねって
今更言葉にすることもできずに
家族で囲んだ食卓のスープの味がしなくって
人間が死ぬ動物でよかったねって
本能が肩を落とした
子供たちは初雪の朝みたいに
無邪気に低重力を楽しんでいるけれど
布団の重たさがないと眠りが浅い俺と妻は
文学がただの趣味だってことを
もう誰にも隠す必要ないねって
カプセルから手だけ出して握り合った

二〇二三年一〇月一四日(土)

ポエトリーカラス15

死ぬほどその前を通ってたのに
今日初めて入ったアンティークの雑貨屋に
灰皿になりそうな缶が売っていて
買おうとしたら領収書が出せないとか言われて
その理由をインボイスで税理士の不手際がどうのって
人のせいにしてたから
「じゃ、また来ます」って言ったら
売れちゃうかも知れませんよって
ニコリともせずに店主がこっちを見てきて
「その時はその時です」って店を後にした
 
久しぶりに会った80になる親父に
孫の名前全部覚えたかって聞いたら
「当たり前だろ」って言うから
じゃあこの子の名前は?って息子の頭を撫でたら
「急に聞かれても困る」って親父は言った
週末に行くことが多い実家だから
爺ちゃん婆ちゃんはいつも競馬やってたって
孫達の記憶の中で生き続けるだろう俺の両親
三連単と複勝と単勝全部同時に当てた時
「すげー!」って叫んだ親父の「すげー!」って言葉
初めて聞いたその時のこと
葬式で孫たちに聞かせてあげるべきかべきではないか
そろそろ決めなくちゃいけないってことを
こないだの北海道で見た最後の夢が告げていた
 
カルカッタで行くとろがなくて
一応マザーテレサのテレサハウスに行ったけど
たいして時間も潰せずにその後渋々行った
タゴールの博物館の芝生で寝転んでて
日本語が聞こえると思って何となく見たら
谷川俊太郎御一行で
タゴール像の前で記念撮影をして別れたその夜
ブッダガヤまで向かう夜行列車でまた会って
寝台の車両まで同じだったからさすがにと
ノープランだった旅の途中から
御一行のチャーターバスに乗せてもらって
ブッダが悟りを開いたという菩提樹の下で
谷川俊太郎が詩を書くという企画にも乗っかって
詩を書いてみたけど大した詩は書けなかった
 
目覚めるともうとっくに太陽は昇っていて
部屋の中は潮の匂いに満ちていた
潮の匂いって慣れると思ってたのに全然慣れなくて
もしかしたらベトつく肌の感覚が
潮と結びついてるだけなんじゃないかって
裸で踊るアビニョンの娘たちに言われて
遠方の友達が持ってきたぶどう酒に酔ったせいで
記憶がだいぶ怪しかったけれど
近現代の絵画の歴史をまとめたYouTubeを見た後に
本棚の奥から取り出したピカソの図録
あれがもしシャガールだったなら
潮の匂いのことなんて全く気にならなかった
 
親父に一度だけ殴られたことがあって
殴られたって言ってもパチンと叩かれただけだけど
正月の特番でやってた8時間の忠臣蔵の
ラスト三十分のところで外から帰ってきた俺が
おもむろにチャンネルを変えた時のこと
痛いというよりも「叩かれた」って思った
親父に躾みたいなことをされた記憶はなくて
「寝なさい」しか言わない親父だったから
40年以上の付き合いになるっていうのに
親父の考えてることが一つも分からない
最近出入りしてる北海道で唐突に
親父の夢を見たのはきっと
忠臣蔵に馬が出ていたからか
馬と親父のバイブスがよく似ているから
 
フットサルの時ライターを忘れて
紙タバコを吸うユウスケ君に借りようと思ったら
古めかしいジッポを貸してくれて
その後プレーが終わったユウスケ君が
ラメのシールが貼られてる安っぽいドラゴンのライターを
もう一つあったからって持ってきてくれた
そのライターが今目の前にあって
100円ライターがよくお店の宣伝に使われることを思った
ラブホテルのライターで浮気がバレた件数と
年間の死亡事故の件数が同じくらいだって
クルクルパーマの脳科学者が新刊の本で言っていて
どんな発見でも大きな声で言うことの大切さを
体を張って教えてくれた
 
初めて火星に降り立った時
こんなもんかぁって思ったのが正直な感想で
これからここで生活するのかなりダルそうだねって
今更言葉にすることもできずに
家族で囲んだ食卓のスープの味がしなくって
人間が死ぬ動物でよかったねって
本能が肩を落とした
子供たちは初雪の朝みたいに
無邪気に低重力を楽しんでいるけれど
布団の重たさがないと眠りが浅い俺と妻は
文学がただの趣味だってことを
もう誰にも隠す必要ないねって
カプセルから手だけ出して握り合った

二〇二三年一〇月一四日(土)

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