皿に盛られた牛タンを前に
「これだけの舌が私一人の一食なんだから
牛ってどれだけ殺されるんだろう毎日」
自分の舌をベロっと出しながら彼女は言う
「牛の舌って俺たちが思うより長いんだよ」
どこかで聞いたか読んだかの事を伝えると
少し動きを止めて徐に彼女は言う
「私って暗い所にいる方が安心するんだよね」
そんなことずっと前から僕は知っていたけど
「うん」とだけ返事をして一枚目のタンを食べた
それからどんな話をしたのかは思い出せない
風が強くて吸いづらいタバコをもみ消した後
食後の散歩と銘打たれた夜のお花見で
仮設トイレの影
薄っすらとした人気のない死角を見つけると
断りもなく彼女は踊り出した
それをただぼうっと見ている間
薄い雲の向こうの月明かりが強まって
言葉がただ言葉として
だからもう言葉と言うと違ってしまう感じで
目の前に現れた
彼女は暗い所でばかり踊る
そんなことずっと前から僕は知っているというのに