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詩

最高傑作

詩人は最高傑作を書こうと思い机に向かっていた
だが詩人の中にこれといった詩がなかった
仕方ないので詩人は沈黙を受け入れた
どこまでも続く長い沈黙だった

沈黙の先に途方も無い孤独があった
孤独はとぐろを巻いた蛇のように詩人に絡みついた
詩人は死を予感したけど死んだら詩が書けなくなると思った
そしてそのまま深い眠りに落ちていった

次の朝詩人は机を離れ旅に出ることにした
最高傑作を書くためだと家族と仲間に告げ
みんなはそれを受け入れた
詩人は言い出したことを曲げることがなかったから

旅に出ても詩人は最高傑作を書けなかった
中国の長い城も踏破したしアフリカで象にも乗った
ジャングルで変な煙も吸ったし氷点下の中でかき氷も食べた
その度に詩を書いたけどそれらすべてが最高傑作ではなかった

詩人は詩人として生きてきて最高傑作を書けないことが悔しかった
何人かに「これは君の最高傑作だ」と言われたことがあったけど
詩人は他人を、ましてや他人の言葉を一切信用してなかった
詩人が信じているものは自分の中に落ちる稲妻だけだった

手ぶらで帰るのが恥ずかしかったから詩人は故郷を捨てた
水の美味しいせせらぎの町に詩人は住むことにした
小鳥のさえずりで目を覚まし星の合図で眠りについた
そこで暮らしていると詩人の中から自然と詩が溢れ出した

このままいけば最高傑作が書けるかもしれないと詩人は思った
髪の長い女と恋に落ち新しい家族ができた
ヤギのミルクでシチューを作り眠る前にはダンスをした
詩人にはそれらすべてが愛おしかった

詩人は家族を養うために仕事をした
詩を書く以外のことをしたくなかったけど
その経験すべてが詩になるはずだと詩人は信じていた
休憩の合間にも休みの日にも詩人は詩になるものを探した

詩人は折に触れ詩を書き続けたが
結局どれもこれも最高傑作と呼べるものではなかった
子供達も成人をして飼っていたヤギも昔に死んだ
透明だったせせらぎもいつしか濁っているようだった

気がつけば背筋は曲がり頰の肉もゆったりと垂れ下がっていた
朝起きるのもめんどくさくなり一日の大半を寝床で過ごした
愛していた妻も亡くなり詩人はもう家を出ることもなくなった
詩人はそれでも詩を書き続けた

ほとんど動かなくなった指先で詩人はペンを握っていた
雨音が音楽のように詩人に降り注いだ
戸口から吹き込む隙間風が詩人のまつげを揺らした
もうほとんど意識はなくなっていたけれど詩人は詩を書いていた

やがて詩人は帰らぬ人となった
誰にも気づかれずに静かに息を引き取った
書き書けていた一編の詩が枕元に残されていた
詩人の死に顔は少しだけ微笑んでいるようだった

死んだ詩人にも時間が流れていった
それまでとなんら変わらないままだった
家は取り壊されすべては焼き払われた
詩人がそこにいたことを知っている者はもうどこにもいなかった

二〇一七年〇三月二六日(日)

最高傑作

詩人は最高傑作を書こうと思い机に向かっていた
だが詩人の中にこれといった詩がなかった
仕方ないので詩人は沈黙を受け入れた
どこまでも続く長い沈黙だった

沈黙の先に途方も無い孤独があった
孤独はとぐろを巻いた蛇のように詩人に絡みついた
詩人は死を予感したけど死んだら詩が書けなくなると思った
そしてそのまま深い眠りに落ちていった

次の朝詩人は机を離れ旅に出ることにした
最高傑作を書くためだと家族と仲間に告げ
みんなはそれを受け入れた
詩人は言い出したことを曲げることがなかったから

旅に出ても詩人は最高傑作を書けなかった
中国の長い城も踏破したしアフリカで象にも乗った
ジャングルで変な煙も吸ったし氷点下の中でかき氷も食べた
その度に詩を書いたけどそれらすべてが最高傑作ではなかった

詩人は詩人として生きてきて最高傑作を書けないことが悔しかった
何人かに「これは君の最高傑作だ」と言われたことがあったけど
詩人は他人を、ましてや他人の言葉を一切信用してなかった
詩人が信じているものは自分の中に落ちる稲妻だけだった

手ぶらで帰るのが恥ずかしかったから詩人は故郷を捨てた
水の美味しいせせらぎの町に詩人は住むことにした
小鳥のさえずりで目を覚まし星の合図で眠りについた
そこで暮らしていると詩人の中から自然と詩が溢れ出した

このままいけば最高傑作が書けるかもしれないと詩人は思った
髪の長い女と恋に落ち新しい家族ができた
ヤギのミルクでシチューを作り眠る前にはダンスをした
詩人にはそれらすべてが愛おしかった

詩人は家族を養うために仕事をした
詩を書く以外のことをしたくなかったけど
その経験すべてが詩になるはずだと詩人は信じていた
休憩の合間にも休みの日にも詩人は詩になるものを探した

詩人は折に触れ詩を書き続けたが
結局どれもこれも最高傑作と呼べるものではなかった
子供達も成人をして飼っていたヤギも昔に死んだ
透明だったせせらぎもいつしか濁っているようだった

気がつけば背筋は曲がり頰の肉もゆったりと垂れ下がっていた
朝起きるのもめんどくさくなり一日の大半を寝床で過ごした
愛していた妻も亡くなり詩人はもう家を出ることもなくなった
詩人はそれでも詩を書き続けた

ほとんど動かなくなった指先で詩人はペンを握っていた
雨音が音楽のように詩人に降り注いだ
戸口から吹き込む隙間風が詩人のまつげを揺らした
もうほとんど意識はなくなっていたけれど詩人は詩を書いていた

やがて詩人は帰らぬ人となった
誰にも気づかれずに静かに息を引き取った
書き書けていた一編の詩が枕元に残されていた
詩人の死に顔は少しだけ微笑んでいるようだった

死んだ詩人にも時間が流れていった
それまでとなんら変わらないままだった
家は取り壊されすべては焼き払われた
詩人がそこにいたことを知っている者はもうどこにもいなかった

二〇一七年〇三月二六日(日)

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