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詩

季節はじめの今日は

季節はじめの今日は、山を下りて商いをする日だった。チマディンツェはいつもより早く起きて、もろもろの支度をしていたのだが、ひび割れたガラス窓から入ってくる風が急に気になりだして、テープで止めて立て付けを直しているうちにすっかり陽は昇ってしまっていた。暖炉の上の棚には写真立てが飾ってあり、見ると、それは写真ではなく夫婦とその子供であるらしい家族が描かれたイラストだった。そのイラストから作者を判別することは不可能に思われたが、たいして上手く描かれていないことから素人が書いたものであることは分かったし、絵が伝えている風合いはチマディンツェの手仕事のイメージそのものだった。

革のブーツのヒモをきつく締め直し、カップに注がれた残りのコルテを一気に流し込むと、「ふぅー」と大きく息をついたチマディンツェは写真立ての中のイラストを見やり「いってくるよ」と言ってしばし静止した。口元が白くなったヒゲで覆われていることもありチマディンツェの表情は分かりにくかった。椅子から立ち上がると、床板がキィと鳴り、そとにいた二匹のイヌーがものすごい勢いで部屋の中に駆け込んできて、チマディンツェの膝の上から腰の辺りに前足を掛け、上体をのけぞらせるようにして首筋まで顔を近づけて吠えた。イヌーのテンションに対して不釣り合いではあったが、チマディンツェは「よしよし」と空いていた片方の手で抱き上げるようになでた。

二〇〇九年〇三月二七日(金)

季節はじめの今日は

季節はじめの今日は、山を下りて商いをする日だった。チマディンツェはいつもより早く起きて、もろもろの支度をしていたのだが、ひび割れたガラス窓から入ってくる風が急に気になりだして、テープで止めて立て付けを直しているうちにすっかり陽は昇ってしまっていた。暖炉の上の棚には写真立てが飾ってあり、見ると、それは写真ではなく夫婦とその子供であるらしい家族が描かれたイラストだった。そのイラストから作者を判別することは不可能に思われたが、たいして上手く描かれていないことから素人が書いたものであることは分かったし、絵が伝えている風合いはチマディンツェの手仕事のイメージそのものだった。

革のブーツのヒモをきつく締め直し、カップに注がれた残りのコルテを一気に流し込むと、「ふぅー」と大きく息をついたチマディンツェは写真立ての中のイラストを見やり「いってくるよ」と言ってしばし静止した。口元が白くなったヒゲで覆われていることもありチマディンツェの表情は分かりにくかった。椅子から立ち上がると、床板がキィと鳴り、そとにいた二匹のイヌーがものすごい勢いで部屋の中に駆け込んできて、チマディンツェの膝の上から腰の辺りに前足を掛け、上体をのけぞらせるようにして首筋まで顔を近づけて吠えた。イヌーのテンションに対して不釣り合いではあったが、チマディンツェは「よしよし」と空いていた片方の手で抱き上げるようになでた。

二〇〇九年〇三月二七日(金)

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