前乗りした一ノ関の「亀の井ホテル」で目を覚まし、カーテンを開けると見晴らしの良い平野と山並みが広がり、「詩でも書こうかな」と思うも「いや違うな」と見切りをつけて書かなかった。合併に伴い新設される大東中学校の校歌を書いた経緯から、この後、開校式なるものに参加して、登壇し挨拶をすることになっている。昨日寝しなに、なんとなく挨拶のシミュレーションをするも喋ることが全く浮かばず少し不安で、今朝書こうと思った詩は、そこで読めるようなものになればという思考が入ったから、それは詩にならない予感がした。山並み(きっと立派な名前がある)を見てると、自然と啄木や賢治のことが思い出され、この岩手の地と、果ては俺の血脈なのか、遠からぬ縁を感じたことは事実だが、それを今、詩に残すのは、さすがに気持ちの弱さから来ていることが否定しきれなくて、それでも湧き上がるものが詩であって、今朝は、そんな余裕がなかった。
開校式は滞りなく終わり、挨拶は、いただいていた時間を大幅にはみ出して、喋りながら「早く終わらせなきゃ」と焦ったけど、教育長も来賓の方も喜んでくれたようで(生徒たちとは喋る機会がなかった)、一応、面目は果たせたようだ。
次の移動がタイトだったこともあり、事後のメディアインタビューが駆け足になってしまい、通り一遍のことしか言えなかった感。少し舌先が苦くなった。インタビュアーさんの名前もちゃんと聞けなかった。
タップを駅に送り、レンタカーを返すと、一時間ほど時間が空いたので、漢字を当てた「フレンド」だったかな?というカフェでトーストを食べる。高校を卒業した春休みに一人で岩手に来た時に、一ノ関駅前のカフェで、パフェを食べたことが景色から呼び起こされて、ここだったかなぁと思いつつ入った。この店(「フレンド」じゃない気がしてきた)は駅から見てロータリーの右側にあり、当時入ったカフェは左側にあった気がして、三十年近く前のことだから、お店が存続している可能性と同じくらい、記憶が確かであることも低い。当時、その店で食べた「タワーリングパフェ」という異様に背の高いパフェを食べて、そのまま「タワーリングパフェ」という詩を書いた。不思議とこの記憶は確か。手書きで書いた詩の形は覚えているけど、内容は取るに足らないものだったろう。いつか引き出しの奥とかから出てくるかもしれないけど、もう二度と読むことはない気がしている。
渡された切符のまま花巻空港へ赴き、小さな機体の飛行機でそのまま北海道へ。空港近くのレンタカー屋で借りた車に荷物をどかっと下ろした瞬間に今日の稼働が終わった感じがした。岩手は桜が見頃で、肌寒さも滞在の短かさから逃げきれたけど、北海道はムリだと諦める。もしくは受け入れる(素直に負けを認める)。今日は札幌泊なので、ホテル近くの古着屋に駆け込み、グレーのパーカーと靴下を買った。綻びたパーカーの袖口辺り、ワンチャン詩が漂っている。