朝起きたら、ウッシーは出かけていた。誰もいない山の家っていつぶりだろう。ゆっくりと掃除をしてこの夏を振り返る。セネカだったか「人生の短さについて」だったかで、振り返ることの重要性を説いていたと思うが、俺はあまりにもそれをしない。目の前にことでいっぱいいっぱいなのに、そこに過去とか未来が紛れ込んできたら、胸が苦しくなって泣きそうになる。そしてその涙の意味をまた考えだして吐きそうになる。そんなスタンスで50手前まで生きてこられたんだから、今更大幅に変えるつもりもない。突き詰めるとボケ老人みたいになる。おそらく、俺がボケてもあまり周囲の人に気づかれない。夕方浦河から帰ってきたウッシーを空港まで送る。初めてゆっくり話ができた。会うべくして会ったんだと思った。